ハチワンダイバー』というマンガを読んでいて、ページとページをまたぐような大ゴマが多いような気がする、という印象をもったのがこの記事を書いたそもそものきっかけです。いくつかのマンガを参照しながら、こうしたコマが視線誘導やストーリーの中でどのように機能しているのかを、述べていこうかなと思います。


そもそも、ここで問題にしたいと思っているコマはどのようなものかというと、こんなタイプです。

ハチワンダイバー』19巻、200−201頁

いわゆる見開き2頁をすべてつかったような大ゴマは、『のらくろ』シリーズや『汽車旅行』、つまり戦前の漫画においても使用例を確認することができます。今回はそうではなく、「ページをまたいでいるのにもかかわらず、見開き2ページを全て使っていないコマ」について考えてみたいと思うのです。


なぜこのコマが特殊なのかというと、マンガ内にこのコマが出てきた途端、「多くのマンガに適応される視線の運び方」が突き崩されることになるからです。

図解してみます。
つまり、普通にマンガを読むときは、
「右上から左下へ」という視線の動きが多用されることになります。
1ページを右上から左下に読み、次のページの右上に視線を移す。
見開きの大ゴマであっても、右上から左下へ、という視線の動き方に大きな違いはありません。

ところが、『ハチワンダイバー』のような横長のコマが出現した瞬間、「右上から左上へ」という視線が加わります。
さらに、普段は意識していなかった「左上から右下へ」という視線の動きが強調され、読者は視線を「逆Z型(S字型)」に動かすことになります。


なぜ、このような地面に平行な視線誘導が要請されるようになったのか?
もちろん、マンガの図像で表現するものの性質上、横長にならざるを得なかったコマもあると思います。たとえば、以下の例。


『賭博堕天録 カイジ』5巻


カイジの17歩麻雀の回では、こうしたページをまたぐコマが数えきれないほど存在します。麻雀の配牌という横長に並ばざるをえないものを表現する際に、こうした横長のコマが要請されたという考えは、決して邪推ではないと思うのです。


ところが、『カイジ』作品は別に麻雀だから横長のコマを採用したわけではないようなのです。その例証として、カイジ第一話のタイトルページを引用しておきます。


『賭博黙示録 カイジ』1巻、6−7頁


第一部ではタイトル頁にこの形式が踏襲されていて、完全に作者の手癖と化しているような感があります。
実際に、カイジ以前に書かれた『天』からすでに、この手法はすでに採用されていたようです。
だからこそ、この視線誘導がもたらす効果を、作品内の要素と作品外の要素に分けて考えなければならないように感じているのです。


本のノドに書かれる印刷技術との関わりや、視線を激しく動かすことによるスリル感、ということも考えつつ、
また機会があれば論じたいと思います。